その境界線は。
高町なのはを全力全開で愛していく。そんな小説を書いてます。
溶けた灰色の小石 2007/10/16
何回書いても、何回書いても
フェイトさんが幸せになれないよ〜。
というわけで「フェイト→なのは」です。
一万HITに「フェイトさんにメタメタに愛されるなのは。ヤンデレ」とリクエストしていただいたものを書きました。
ヤンデレ大好き。だけど最後までヤンデレつきとおして書くのは難しい・・・・いろいろ失敗した感があります。というかこれヤンデレ・・・・?
あとヴィータごめん。本当にごめん。
いろいろ失敗した感がありますが、よければ続きよりどうぞ。
手紙を書こうと思う。
短くて薄っぺらな言葉しか詰まっていない、だけど気付かれないように、こっそりと想いを込めた手紙を、私は書こう。
――なのは。
いつも大きな笑顔をくれていたなのは。
私の大好きななのはに当てた手紙が、どうか届きますように。
遠くからひっそりと祈りををささげる。ずっと。
溶けた灰色の小石
思えばあの頃が一番幸せだった、などという台詞は絶対に吐きたくなかった。
今が辛くとも、いつか彼女に見てもらえるならば、どんなに辛い事があろうと生きていけた。
海鳴市の堤防に立つ自身は、彼女が誉めてくれた長い金髪を揺らし、水平線を眺めていた。足元は不安定に揺れ、焦点も覚束ない。
まだ二十に満たない人間が、いやに寂しげな雰囲気を漂わせていたけれど、それすらその世界においては自然なものだった。
「なのは」
ぼんやりと見ている。青く澄んだ空も、乱反射しながら水面で転がる陽も、肌に心地良い潮風も。自分には全く意味を成さない。意味を成すのは、頭の中だけの彼女。自分だけの彼女。
誰よりも可愛らしい人を思い浮かべる。口元に笑みが浮かんだ。
「なのは」
もう一度呼んで、私はそっと瞼を落とした。瞼の奥で彼女が笑ってくれて、やはり私は幸せだった。
それほどではない昔に、じっと目を見詰めたまま指を絡めとって口に寄せ、くすぐったがる彼女にも構わずそのひとつひとつにキスをした。
丸裸の今の自分の格好が決して恥ずかしくないわけではない。ただ感情のほとんど全てが彼女に奪われていたから。好きだという気持ちと、いとおしいという気持ちが限界ぎりぎりまで増幅させられた後、根こそぎひきつけられた今の自分に、なのは以上のものはない。三大欲求にだって勝る自信がある。
眠るなといわれれば、腕にナイフを突きつけてでも眠らないだろうし、食べるなといわれれば水だけで空腹を満たしてみせる。隠すべく所をあらわにしたなのはを前に、拒否されても襲うことはない。死ねといわれれば、きっと死ねるし、生きろといわれればどんな過酷な状況でも生き抜いてみせる。
――それが現実に出来るかどうかが問題ではない。
当時の私、少女と呼べるほど幼き日々の中において、そう思わせること自体が異常だった、と今でこそようやく理解できるようになった。
じわりじわりと肌を焼いていく。
慰め程度に吹いてくる風に乗せ、私は手元の写真を空に預けた。
空は彼女の場所だった。
だからどうせなら、空の懐においておいて欲しくて。
そしてどうか、あの手紙が彼女の元に届きますように。
できるならばなのはの、ほんの一滴分だけの隙間に、私の想いが注がれること。それは執務官の名を捨ててしまった、自分のたったひとつの望み。
◇ ◇ ◇
波打つ音を直に感じていた。
足首に打ち付ける海水は冷たくて、昼間の肌を焼くような熱射が嘘のようである。淡い月明かりが水面に注いでいる様を幾分か眺めては、瞼をおとす。それの繰り返しだ。
今頃は部屋で安眠の最中にいるであろうなのはに想いを馳せた。それでもフェイトの口元は真一文字を結んだまま、僅かにも緩むことはなかった。
潮風に長時間さらしていたせいか、髪もごわついている。とても触らせられるようなものではない。
それでも私は部屋に戻る気はなかった。だからこそ砂上に腰を落としている。
足元に『なのは』と数千回ほどかいてみたけど、いずれもかき消されてしまった。いまは座っているいちよりも上のほうに書いてある。消えることなどない。
ふいに数時間前の青ざめたなのはの表情がやけに鮮明にうかんでくる。機動六課の宿舎で私が息を切らしていたときだ。
「あれ、ヴィータちゃんいるってきいたんだけど」
言いながら宿舎の自室になのはは入ってきた。
普段はきりりと引き締めた表情をして指導している彼女がそんな顔をみせるなど、新鮮で、少し嬉しく思ったんだったか。私はそんな彼女にくすりとわらって抱き締めようとするが、かわされる。仕方なく彼女から離れることにした。今は機嫌がよかったから。
「どうしたの、おかしな顔になってるよ」
「だっ……て、フェイトちゃん」
「うん?」
「血……」
「ああ。私は大丈夫だよ。ってなのはならわかるか」
「……ねえ、ヴィータちゃん知らない?」
ゆっくりと。波が一生懸命作った砂の城を削っていく。脆いもので、一瞬にして海の中に消えていく。
雑音はなかった。目の前の人だけが鮮明だった。
「そんな人、もういないよ」
今度は逃げられないよう、しっかりと目線で射抜いてから抱き締める。きつく、赤く染まった手で彼女を引き寄せ、首筋に鼻を埋めるがどことなくヴィータの匂いがして嫌だったので、あざになるほどに吸い付いた。なのはは痛がったが、私はやめなかった。
「なのは、逃がさないからね」
「フェイト、ちゃ……」
「愛してるよ、なのは。なのは、なのは……なのは」
この言葉を捧げたい人など、なのはしかいないというのに。
まだ逃げようとする彼女の四肢を物理的に縛り付けた。悲鳴が途切れるまでその攻めは続いた。そして今ここにいる。ぼんやりと月だけが浮かぶ夜空を眺めている。
名前を呼ぶなのはの声が愛しい。
差し延べてくれるなのはの手が愛しい。
やわらかななのはの笑顔が愛しい。
ぴったりと自分と合うなのはの身体が愛しい。
全部全部。
なのはの全てが愛しかった。
「フェイトちゃん、私はね、フェイトちゃんのこと好きだよ」
「ふぇ、な、なのはっ?!」
「そういう可愛いとこ、好きだなあって思うんだ」
「ひ、ひどいよ。そんな冗談言うなんて」
「冗談じゃないよ。本当に心から思ってることなんだから。可愛くてしかたない、いつだって抱き締めたいと思ってる」
「嘘だよ。私なんて、ただのクローンだし、代わりだし、それになのはには他にたくさん人がいる」
「自分を卑下しちゃだめでしょ。それに本当だよ。フェイトちゃんはなのはのこと嫌いなの?」
「そんな! ありえないよ。でもなのはが私をなんてとても信じられなくて」
なのはは溜息を一つついて、それから呟いた。
「信じさせてあげる」
出会ったばかりの、私たちが小さい頃。そっと触れられた唇の熱さは今でも忘れる事のない、鮮やかな記憶。
瞼を落とせばそれがそのまま甦ってくる。なのはのちょっとした仕草、些細な言動全てを覚えている。
なのはが好きだった。愛していた。
ずっと続くんだと思っていたし、信じてもいた。信じられるだけのものをなのはは与えてくれたから。
毎日キスをして、時間が少しでも取れれば身体を交えた。
本当に嬉しくて、だからなのはがだんだんと自分以外の人を構うのが気に入らなくなっていった。
新人たちはまだいい。円滑なコミュニケーションを進めていくための、上辺だけの笑顔だと分かるから。
だけどあの騎士に対しては違った。
ヴィータになのはは必要以上に絡んだ。
はたからみれば、じゃれあう仲の良い姉妹といったところなのだろうが、私にはそうは見えなかった。ヴィータの態度が目に余るのはよしとする。なのはに笑顔を向けられれば惚れてしまうのは当たり前だから。
だけどなのはもとなれば話は違ってくる。
なのはのヴィータに対するそれは、ただの稚拙な戯れではなかった。
頭を撫でる。抱き締める。全て一杯の友情とほんの少しの愛情を含んだ戯れ合いだった。
――なのははヴィータを好いている?
脳がそう認識したのは、もう遅かったように思う。
そう。私が確信した時、なのはの心は全てヴィータに持っていってしまわれた後だった。
上体を砂上に倒した。髪に砂が絡まっていったけど、構わなかった。
瞼を落としても眩しいくらいの月明かりの中、だけどちっとも幻想的でない光景を、何の感慨も無く瞼の裏側から見詰めた。
全てが遠くにあった。頭上から降ってくる声も、ただの背景の一部として捉えていた。それはここにあるはずもない声で、私はそのままでいようとした。だが突然海水が顔面にかけられて咽び、瞼を開いてしまった。どうにか息を整えたところで、表情を削ぎ落としたなのはの声が降ってくる。
「どうしてそんな顔してるの」
「え?」
「フェイトちゃんがそんな顔していい理由なんてなにもない」
なのはは更に続ける。
「泣きたいのはこっちなんだよ?酷いことしたのはフェイトちゃんの方なのに。私ちゃんと言ったよね。ヴィータちゃんが好きになった、ごめんって。それでフェイトちゃんも笑って頷いてくれたじゃない。おめでとうって。……こんなの酷いよ」
「なの――」
「でもなんでかな。なんで自分はまだフェイトちゃんを恨めてないんだろう。ヴィータちゃん今頃きっと怒ってる。お前はなんて薄情なやつなんだって。フェイトちゃんのせいだよ、ぜんぶフェイトちゃんのせい」
「……そうだね」
「だから、フェイトちゃんが泣いてるのって凄くおかいしんだよ。早く泣き止んでよ」
「うん」
力任せに目元を拭ってから、手が海水や砂まみれになっていたことに気付いた。顔中に砂がへばりつきべたついてしまったが、目的は涙を消すこと。問題はない。なのはも笑ってくれてる。大丈夫、私には分かってるよ。
私のことを世界で一番嫌いになってくれてるって。
「二人で逃げようか」
だからそんな声は幻聴に違いないと見上げたのは仕方の無いことなのだ。先ほど薄っすらと浮かべていた笑みは既に消されていて、仮面だけが張り付いている。ひび割れに気付くのはきっと自分だけに違いない。あともう一人は、もういないから。
「このままだとフェイトちゃん幽閉されて一生を過ごすことになるよ。はやてちゃんだって庇いきれない、……ううん、庇わない、きっと」
大切な家族だったのだ。いくら幼馴染で友人とはいえ、おそらく当然であろう。
「だろうね」
そんな頷く私の顔をあげさせるように、なのはが肩に手を置く。
「だからその前に逃げよう。大丈夫、二人でならきっと誰にも捕らえることなんてできない」
「なのは……」
「いこう、一緒に」
瑠璃が灼熱を焼き尽くさんとするほど熱く見詰められる。穴が空くとは正にこのこと。
『一緒に、ふたりで』
最初はそのつもりだった。
なのはを連れて、なのはと二人の世界に入り込むつもりだった。
何処へでもなのはがどんな形であれ、いるのならきっと生きていけるのだろうという自信があった。
――だけど。
だけどなのはが用意した仮面はかずれていて。ふとした反動で落ちてしまっていて。素のなのはの表情が露見していったのを見てしまうと、自分の中のそうしたものが、足元に築いた砂上の城のごとく脆く崩れ去ったのが分かってしまった。
こんなに酷い自分を心底から心配し、気遣ってくれている。
大切な人の愛しい人を消すために、せっかく心に張った膜だけど、いつの間にかそんなもの無くなっていた。
……私は、もう。
波がずっと奥まで引いていった。見えないほど遠く、終わりなどあるのか分からないぐらいに遠くまで引いていった。音だけが反響している。
「そうだね、いっしょに逃げようか」
その翌日、私はミッドチルダから姿を消した。
◇ ◇ ◇
一人きりの時間はいつになっても慣れない。昔も孤独を感じてはいたがアルフがいてくれたおかげだろうか、一人というものに耐性がなかった。――辛い。が、それでいいのだ。自分への戒めにはちょうど良い。
だがそれも終わり。今いるここは最後の場所だ。
なのはとであった海鳴市の海岸で、あの夜と同じように佇んでいた。違うのは空の色と、空気と、なのはがいないということだけ。
ミッドチルダを離れるとき、三枚だけ写真を抜き出した。引っ張り出しては眺めるという動作を繰り返したせいで刻み込まれた皺に指をのせると、一枚ずつ捲っていく。
一枚目は管理局が撮った全力全開の砲撃を繰り出すなのはの全身。生き生きとした様子は、なのはのうちでも大好きなもののひとつだった。
二枚目が自分が撮ったなのはの笑顔。再会したばかりの頃に写した制服姿のなのはだ。一番幸せだった頃の――ともういってもいいか。間違いなく、なのはの多数ある表情の中で一番好きな表情だから手にとった。
三枚目は……。
気紛れに吹き抜けていく風に、写真を乗せた。遠い空まで届けば良いのに。いずれは海に落ちるのだろうけれど、それでも一抹の望みをかけて、私は見上げた。
あとに残ったのは、一通の手紙。真っ白な便箋の中央に、一行だけ文を書き記した。
最後に名前を記さないまま、それも空に飛ばす。
たった一人の人に宛てる。
その手紙に、一握りの言の葉をのせて。
――世界で一番愛している人へ。
きっと届くことの無い一枚の紙きれは、千切れても終わらぬ風との旅を求め、舞い上がった。
× あとがき ×
ヤンデレ……。でも最後は自分を取り戻したわけですが。
というかフェイトが幸せになれない。これは自分の書く小説では定番になりつつあるのか・・・。修羅場好きだから仕方ないのかも。でもフェイなのはやっぱり甘いのがいいね。今度こそは挑戦してみよう。
この話の主役は珍しくなのはでなくてフェイトでした。
三枚目の写真、そして最後フェイトがどうなったかは、ご想像にお任せ、という感じで。
読んでいただき有り難うございました。
フェイトさんが幸せになれないよ〜。
というわけで「フェイト→なのは」です。
一万HITに「フェイトさんにメタメタに愛されるなのは。ヤンデレ」とリクエストしていただいたものを書きました。
ヤンデレ大好き。だけど最後までヤンデレつきとおして書くのは難しい・・・・いろいろ失敗した感があります。というかこれヤンデレ・・・・?
あとヴィータごめん。本当にごめん。
いろいろ失敗した感がありますが、よければ続きよりどうぞ。
手紙を書こうと思う。
短くて薄っぺらな言葉しか詰まっていない、だけど気付かれないように、こっそりと想いを込めた手紙を、私は書こう。
――なのは。
いつも大きな笑顔をくれていたなのは。
私の大好きななのはに当てた手紙が、どうか届きますように。
遠くからひっそりと祈りををささげる。ずっと。
溶けた灰色の小石
思えばあの頃が一番幸せだった、などという台詞は絶対に吐きたくなかった。
今が辛くとも、いつか彼女に見てもらえるならば、どんなに辛い事があろうと生きていけた。
海鳴市の堤防に立つ自身は、彼女が誉めてくれた長い金髪を揺らし、水平線を眺めていた。足元は不安定に揺れ、焦点も覚束ない。
まだ二十に満たない人間が、いやに寂しげな雰囲気を漂わせていたけれど、それすらその世界においては自然なものだった。
「なのは」
ぼんやりと見ている。青く澄んだ空も、乱反射しながら水面で転がる陽も、肌に心地良い潮風も。自分には全く意味を成さない。意味を成すのは、頭の中だけの彼女。自分だけの彼女。
誰よりも可愛らしい人を思い浮かべる。口元に笑みが浮かんだ。
「なのは」
もう一度呼んで、私はそっと瞼を落とした。瞼の奥で彼女が笑ってくれて、やはり私は幸せだった。
それほどではない昔に、じっと目を見詰めたまま指を絡めとって口に寄せ、くすぐったがる彼女にも構わずそのひとつひとつにキスをした。
丸裸の今の自分の格好が決して恥ずかしくないわけではない。ただ感情のほとんど全てが彼女に奪われていたから。好きだという気持ちと、いとおしいという気持ちが限界ぎりぎりまで増幅させられた後、根こそぎひきつけられた今の自分に、なのは以上のものはない。三大欲求にだって勝る自信がある。
眠るなといわれれば、腕にナイフを突きつけてでも眠らないだろうし、食べるなといわれれば水だけで空腹を満たしてみせる。隠すべく所をあらわにしたなのはを前に、拒否されても襲うことはない。死ねといわれれば、きっと死ねるし、生きろといわれればどんな過酷な状況でも生き抜いてみせる。
――それが現実に出来るかどうかが問題ではない。
当時の私、少女と呼べるほど幼き日々の中において、そう思わせること自体が異常だった、と今でこそようやく理解できるようになった。
じわりじわりと肌を焼いていく。
慰め程度に吹いてくる風に乗せ、私は手元の写真を空に預けた。
空は彼女の場所だった。
だからどうせなら、空の懐においておいて欲しくて。
そしてどうか、あの手紙が彼女の元に届きますように。
できるならばなのはの、ほんの一滴分だけの隙間に、私の想いが注がれること。それは執務官の名を捨ててしまった、自分のたったひとつの望み。
◇ ◇ ◇
波打つ音を直に感じていた。
足首に打ち付ける海水は冷たくて、昼間の肌を焼くような熱射が嘘のようである。淡い月明かりが水面に注いでいる様を幾分か眺めては、瞼をおとす。それの繰り返しだ。
今頃は部屋で安眠の最中にいるであろうなのはに想いを馳せた。それでもフェイトの口元は真一文字を結んだまま、僅かにも緩むことはなかった。
潮風に長時間さらしていたせいか、髪もごわついている。とても触らせられるようなものではない。
それでも私は部屋に戻る気はなかった。だからこそ砂上に腰を落としている。
足元に『なのは』と数千回ほどかいてみたけど、いずれもかき消されてしまった。いまは座っているいちよりも上のほうに書いてある。消えることなどない。
ふいに数時間前の青ざめたなのはの表情がやけに鮮明にうかんでくる。機動六課の宿舎で私が息を切らしていたときだ。
「あれ、ヴィータちゃんいるってきいたんだけど」
言いながら宿舎の自室になのはは入ってきた。
普段はきりりと引き締めた表情をして指導している彼女がそんな顔をみせるなど、新鮮で、少し嬉しく思ったんだったか。私はそんな彼女にくすりとわらって抱き締めようとするが、かわされる。仕方なく彼女から離れることにした。今は機嫌がよかったから。
「どうしたの、おかしな顔になってるよ」
「だっ……て、フェイトちゃん」
「うん?」
「血……」
「ああ。私は大丈夫だよ。ってなのはならわかるか」
「……ねえ、ヴィータちゃん知らない?」
ゆっくりと。波が一生懸命作った砂の城を削っていく。脆いもので、一瞬にして海の中に消えていく。
雑音はなかった。目の前の人だけが鮮明だった。
「そんな人、もういないよ」
今度は逃げられないよう、しっかりと目線で射抜いてから抱き締める。きつく、赤く染まった手で彼女を引き寄せ、首筋に鼻を埋めるがどことなくヴィータの匂いがして嫌だったので、あざになるほどに吸い付いた。なのはは痛がったが、私はやめなかった。
「なのは、逃がさないからね」
「フェイト、ちゃ……」
「愛してるよ、なのは。なのは、なのは……なのは」
この言葉を捧げたい人など、なのはしかいないというのに。
まだ逃げようとする彼女の四肢を物理的に縛り付けた。悲鳴が途切れるまでその攻めは続いた。そして今ここにいる。ぼんやりと月だけが浮かぶ夜空を眺めている。
名前を呼ぶなのはの声が愛しい。
差し延べてくれるなのはの手が愛しい。
やわらかななのはの笑顔が愛しい。
ぴったりと自分と合うなのはの身体が愛しい。
全部全部。
なのはの全てが愛しかった。
「フェイトちゃん、私はね、フェイトちゃんのこと好きだよ」
「ふぇ、な、なのはっ?!」
「そういう可愛いとこ、好きだなあって思うんだ」
「ひ、ひどいよ。そんな冗談言うなんて」
「冗談じゃないよ。本当に心から思ってることなんだから。可愛くてしかたない、いつだって抱き締めたいと思ってる」
「嘘だよ。私なんて、ただのクローンだし、代わりだし、それになのはには他にたくさん人がいる」
「自分を卑下しちゃだめでしょ。それに本当だよ。フェイトちゃんはなのはのこと嫌いなの?」
「そんな! ありえないよ。でもなのはが私をなんてとても信じられなくて」
なのはは溜息を一つついて、それから呟いた。
「信じさせてあげる」
出会ったばかりの、私たちが小さい頃。そっと触れられた唇の熱さは今でも忘れる事のない、鮮やかな記憶。
瞼を落とせばそれがそのまま甦ってくる。なのはのちょっとした仕草、些細な言動全てを覚えている。
なのはが好きだった。愛していた。
ずっと続くんだと思っていたし、信じてもいた。信じられるだけのものをなのはは与えてくれたから。
毎日キスをして、時間が少しでも取れれば身体を交えた。
本当に嬉しくて、だからなのはがだんだんと自分以外の人を構うのが気に入らなくなっていった。
新人たちはまだいい。円滑なコミュニケーションを進めていくための、上辺だけの笑顔だと分かるから。
だけどあの騎士に対しては違った。
ヴィータになのはは必要以上に絡んだ。
はたからみれば、じゃれあう仲の良い姉妹といったところなのだろうが、私にはそうは見えなかった。ヴィータの態度が目に余るのはよしとする。なのはに笑顔を向けられれば惚れてしまうのは当たり前だから。
だけどなのはもとなれば話は違ってくる。
なのはのヴィータに対するそれは、ただの稚拙な戯れではなかった。
頭を撫でる。抱き締める。全て一杯の友情とほんの少しの愛情を含んだ戯れ合いだった。
――なのははヴィータを好いている?
脳がそう認識したのは、もう遅かったように思う。
そう。私が確信した時、なのはの心は全てヴィータに持っていってしまわれた後だった。
上体を砂上に倒した。髪に砂が絡まっていったけど、構わなかった。
瞼を落としても眩しいくらいの月明かりの中、だけどちっとも幻想的でない光景を、何の感慨も無く瞼の裏側から見詰めた。
全てが遠くにあった。頭上から降ってくる声も、ただの背景の一部として捉えていた。それはここにあるはずもない声で、私はそのままでいようとした。だが突然海水が顔面にかけられて咽び、瞼を開いてしまった。どうにか息を整えたところで、表情を削ぎ落としたなのはの声が降ってくる。
「どうしてそんな顔してるの」
「え?」
「フェイトちゃんがそんな顔していい理由なんてなにもない」
なのはは更に続ける。
「泣きたいのはこっちなんだよ?酷いことしたのはフェイトちゃんの方なのに。私ちゃんと言ったよね。ヴィータちゃんが好きになった、ごめんって。それでフェイトちゃんも笑って頷いてくれたじゃない。おめでとうって。……こんなの酷いよ」
「なの――」
「でもなんでかな。なんで自分はまだフェイトちゃんを恨めてないんだろう。ヴィータちゃん今頃きっと怒ってる。お前はなんて薄情なやつなんだって。フェイトちゃんのせいだよ、ぜんぶフェイトちゃんのせい」
「……そうだね」
「だから、フェイトちゃんが泣いてるのって凄くおかいしんだよ。早く泣き止んでよ」
「うん」
力任せに目元を拭ってから、手が海水や砂まみれになっていたことに気付いた。顔中に砂がへばりつきべたついてしまったが、目的は涙を消すこと。問題はない。なのはも笑ってくれてる。大丈夫、私には分かってるよ。
私のことを世界で一番嫌いになってくれてるって。
「二人で逃げようか」
だからそんな声は幻聴に違いないと見上げたのは仕方の無いことなのだ。先ほど薄っすらと浮かべていた笑みは既に消されていて、仮面だけが張り付いている。ひび割れに気付くのはきっと自分だけに違いない。あともう一人は、もういないから。
「このままだとフェイトちゃん幽閉されて一生を過ごすことになるよ。はやてちゃんだって庇いきれない、……ううん、庇わない、きっと」
大切な家族だったのだ。いくら幼馴染で友人とはいえ、おそらく当然であろう。
「だろうね」
そんな頷く私の顔をあげさせるように、なのはが肩に手を置く。
「だからその前に逃げよう。大丈夫、二人でならきっと誰にも捕らえることなんてできない」
「なのは……」
「いこう、一緒に」
瑠璃が灼熱を焼き尽くさんとするほど熱く見詰められる。穴が空くとは正にこのこと。
『一緒に、ふたりで』
最初はそのつもりだった。
なのはを連れて、なのはと二人の世界に入り込むつもりだった。
何処へでもなのはがどんな形であれ、いるのならきっと生きていけるのだろうという自信があった。
――だけど。
だけどなのはが用意した仮面はかずれていて。ふとした反動で落ちてしまっていて。素のなのはの表情が露見していったのを見てしまうと、自分の中のそうしたものが、足元に築いた砂上の城のごとく脆く崩れ去ったのが分かってしまった。
こんなに酷い自分を心底から心配し、気遣ってくれている。
大切な人の愛しい人を消すために、せっかく心に張った膜だけど、いつの間にかそんなもの無くなっていた。
……私は、もう。
波がずっと奥まで引いていった。見えないほど遠く、終わりなどあるのか分からないぐらいに遠くまで引いていった。音だけが反響している。
「そうだね、いっしょに逃げようか」
その翌日、私はミッドチルダから姿を消した。
◇ ◇ ◇
一人きりの時間はいつになっても慣れない。昔も孤独を感じてはいたがアルフがいてくれたおかげだろうか、一人というものに耐性がなかった。――辛い。が、それでいいのだ。自分への戒めにはちょうど良い。
だがそれも終わり。今いるここは最後の場所だ。
なのはとであった海鳴市の海岸で、あの夜と同じように佇んでいた。違うのは空の色と、空気と、なのはがいないということだけ。
ミッドチルダを離れるとき、三枚だけ写真を抜き出した。引っ張り出しては眺めるという動作を繰り返したせいで刻み込まれた皺に指をのせると、一枚ずつ捲っていく。
一枚目は管理局が撮った全力全開の砲撃を繰り出すなのはの全身。生き生きとした様子は、なのはのうちでも大好きなもののひとつだった。
二枚目が自分が撮ったなのはの笑顔。再会したばかりの頃に写した制服姿のなのはだ。一番幸せだった頃の――ともういってもいいか。間違いなく、なのはの多数ある表情の中で一番好きな表情だから手にとった。
三枚目は……。
気紛れに吹き抜けていく風に、写真を乗せた。遠い空まで届けば良いのに。いずれは海に落ちるのだろうけれど、それでも一抹の望みをかけて、私は見上げた。
あとに残ったのは、一通の手紙。真っ白な便箋の中央に、一行だけ文を書き記した。
最後に名前を記さないまま、それも空に飛ばす。
たった一人の人に宛てる。
その手紙に、一握りの言の葉をのせて。
――世界で一番愛している人へ。
きっと届くことの無い一枚の紙きれは、千切れても終わらぬ風との旅を求め、舞い上がった。
× あとがき ×
ヤンデレ……。でも最後は自分を取り戻したわけですが。
というかフェイトが幸せになれない。これは自分の書く小説では定番になりつつあるのか・・・。修羅場好きだから仕方ないのかも。でもフェイなのはやっぱり甘いのがいいね。今度こそは挑戦してみよう。
この話の主役は珍しくなのはでなくてフェイトでした。
三枚目の写真、そして最後フェイトがどうなったかは、ご想像にお任せ、という感じで。
読んでいただき有り難うございました。
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アリサ×なのは

comments
もっと話が進んだら、マジ泣いたかもしれません。
なにやら凄いものを読んでしまいました。あれだけ少ない単語をここまでに仕上げるとは加奈様素晴らしいです!
修羅場というか事を起こした後でしたか..メタメタヤンデレラ恐るべし...
あ〜もう〜フェイトさん不器用というか真っ直ぐというか(-_-;なのはさんが優しすぎるのがいけないのでしょうか?
三枚目の写真、小さな時の写真かな?と思ってみたり
愛しすぎて切ない(T_T)
リクエストして良かったです!ありがとうございましたm(_ _)m
うおお。ありがとう!!
話はここできるのが一番だと自分はおもったので、きってみました。どうかな、、これ以上進めるとグダグダになりそうでしたので。
ちょっとでも感動できたならよいです。。
>リクエストした方
ありがとうございます!
フェイトさん、ヤンデレになっていたか不安です・・・。対象をけせばいいってもんじゃないし、ただ嫉妬してるだけでも無いから難しかったです。
リクされた内容は、もうそれだけで創作意欲を刺激されましたよ!感謝しています。
なのはの優しさは、それこそ残酷なまでに徹底されているかと。
最後なのはがあそこで手を差し延べなければ、きっとなのはをつれさっていただろう。苦しみもなかったはず。だけど現実、なのはは優しかった。だからこそフェイトは辛かった。なのはの優しさに、すこしだけ我を取り戻してしまったんですから。壊れたままのほうが幸せ、っていうのはよくありますよね(*'-'*)。。
フェイトは真っ直ぐです!なのはに向かって一直線ですよ。
三枚目の写真は、フェイトにとって大切な部分を切り取ったものなので、そこさえあっていればなんでも正解です。
こちらこそ読んでいただきありがとうございました♪
堪能させて頂きましたっ!
フェイトのなのはへの想いの強さというのは、ある程度一貫して皆さんの脳に入力されているのでは、と。
いろいろなことが交じり合って、あのなのは大好きフェイトがいる。
話によってそれが良く働くか、悪いほうに働くかで換わってきますけど、根本の部分はかわらないんじゃないかな、なんて勝手におもってます。
上手く言ってる時は普通に見えますが、そうでなければ……みたいな感じですか。な、なんか曖昧?((汗
でも少しでも楽しめたようでよかったです♪
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