失われた部分と残された部分
「貴女の血の味すら」の後日と考えていただければ。
なのティアを書くと必ず暗い雰囲気になるよ。。でもヤンデレは楽しいです。
ただ目指したのはヤンデレというか、壊れたティアナ。となのはさん。
※性的描写を含みます。
それでもよろしければ、続きよりどうぞ。
失われた部分と残された部分
あの人が初めて部屋に訪れた日から、私は狂い始めていたのかもしれない。
「今日も来ないな……」
仕事を終えて暗い部屋に辿り着くと、まずシャワーを浴びて身奇麗にする。それからじっとベッドに座り壁に背を凭れる。両手で握る端末がその中で点滅してくれる事を願いながら、私は独り呟いていた。
なのはさんが来なくなってから一週間が経ち、二週間が経った。
彼女が多忙の中にいることは知っていた。管理局でなのはさんを探すことはしない。時間は無かったが作ろうと思えばできたのだろう、なのに実際に私はなのはさんを探さなかった。広い局内で都合よく見つかると思えなかったし、さすればその時の落胆は予想できる。むしろあって然るべきものだった。
しかし落胆以上に会いたかったのは事実だが、それを押し止めるだけのものがあった。恐怖だ。なのはさんに飽きられてしまったかもしれないという恐怖に身体が縛られて一歩たりとも動く事が出来なかった。彼女は自分などさっさと見切りをつけ、他の子を構うようになってしまったのではないか。
仕事が忙しくてよかったと思う。でなければ思考はすべてなのはさん一色に塗り固められてしまっていただろうから。
フェイトさんの後について行く。その先で、または後ろで補佐をする。合間になのはさんのことを考えては自分を諫めたが、直ぐにまたなのはさんが思考に入り込んできた。フェイトさんならなのはさんの現状を知っているかもしれないが、尋ねはしない。そもそもそういう選択肢が浮ばないほどに切迫していた。
そうしたある日のことだ。任務を滞りなくこなしつつ、廊下を歩いていた時である。
なのはさんがいた。
教導隊の制服を着たなのはさんの姿を見たとき、心臓が停止したような錯覚さえ覚えた。直後心拍数が跳ね上がった。私が彼女の長く綺麗な髪を見つけることができたのは、本当に偶然だった。
張りつめた心が弾ける。なのはさんの腕を引いて、有無を言わさずに一番近くにあった仮眠室へと引き摺り込んだ。喋る間も与えず唇を貪る。お互いの息が乱れても止まない接吻の繰り返しを十数分ばかり繰り返した。長くて短かった。
「ティアナ。私仕事がまだ……」
「二週間なんて、長すぎますよ」
息を整えつつ困惑した表情を浮かべる彼女だったが、私はこんなものでは全然足らないのだ。
「もうあたしから離れないでください。……離れていたくない」
再びなのはさんにキスをした。身体を引いてベッドに倒れこむ。なのはさんが上になりながら、それでもなおどうしようかと迷っている様子が伝わってきて、自分の中に苛立ちが生まれるのを感じた。
「自分の中はなのはさんでいっぱいなんです」
肩に手を添えて彼女を引き寄せる。
「キスだけでこんなになっちゃいました」
口元を笑みの形に歪めて、彼女の指を内股の湿った部分に誘う。彼女の細い指に潰されるように、微かな音がした。そのまま動かし、溢れさせていく。自分のものではない、なのはさんの指が触れているのだと思うとそれだけで更なる快楽が浸透してくる。
「悪い子だね、ティアナは」
「はい」
「悪い子にはちゃんとした躾けをしないといけないかな」
「飼って、くれるんですか?」
「ああ、そうだね。じゃあティアナ……うちに来る?」
望むのなら、飼ってあげるよ。
甘く溶けるようななのはさんの声が、深く刻み込まれた傷に吸い込まれていった。じくじくと疼く全身のあちこちに触れられて、力が抜けていく。彼女がいないと生きていけないというのは、この二週間で思い知った。
飼うという言葉は明くも甘美な誘いで、自分にその誘いを断る理由は何一つとしてなかった。
彼女の家の一室に、自分の部屋を宛てがわれた。準備が進められ、いざその部屋に着くと私は歓喜した。これからここで飼ってもらえるのだと思うと、全身が喜びに打ち震える。今まで抱かれても好きだと囁かれても、彼女と繋がっているという実感はなかった。
ようやく私はなのはさんの所有物になれたんだ。
まず局を辞めた。兄への罪悪感はあったけれど、それすらこの一年の間のなのはさんへの想いに対してはちっぽけなものに成り果てていた。
私はそれから家政婦みたいなことをするようになっていた。今まで雇っていた人は解雇したらしい。ヴィヴィオの見送りは出来る限りなのはさんがし、毎晩遅くに帰宅する彼女の代わりに迎えは自分が行き、クロスミラージュをなのはさんの計らいで手元に残してもらっていた私は、ヴィヴィオとの仮想訓練に付き合ったり遊び相手になったりした。それから夕食の仕度をして、なのはさんが仕事から帰ると三人でご飯を食べる。一見すれば家族のように見えなくもなかったが、根本は全くの別物であることを、私は知っていた。
夜、ヴィヴィオを寝かせてから部屋に彼女が忍び込んでくる。以前のように上辺だけの拒絶の意思を示すことはない。むしろ喜んで受け入れる。拒絶した方がなのはさんは喜ぶのだろうがしかし、私にはそんな計算を含んだ取り引きはきなかった。
ただ求める。なのはさんを求めている。始まってしまえば理性の欠片も残りはしない。自分に纏わりつくすべてを金繰り捨てて彼女に抱きついた。
丁寧に髪を撫でてくれるなのはさん。愛しい声で名前を呼んでくれるなのはさん。鳴いてみせればそれだけ喜んでくれるなのはさんにただしがみつく。待ち望んだ彼女の温度と感触を求め、私は狂ったように腰を振った。慎みなど一切なく、官能の坩堝に潜り込むようにして溺れていく。
月明かりが差し込んでいた。
暗い部屋に差し込んだ光が、髪や身体を透き通って心の芯を照らしつけた。始めは部屋の中でだけだった行為も、次第とエスカレートしていき、外にまで出るようになった。外を出歩く時、私は特注の猫用の首輪を嵌められ、鎖に繋がれていた。その事に私は更なる満足感を得た。何故ならその鎖を握っているのは他でもないなのはさんだったのだから。
肌に纏わりつく狂気さえ心地良く、私はさも当然のこととして受け入れていたのだ。
そうして私は、……私たちは狂っていく。ごく自然に。
なのはさんが私だけを見ていないことは予め気付かされていた。だが彼女が自分を見てくれているなら、それでも構わないと思っていた。
首輪と鎖がなのはさんと自分を繋ぐ何よりの証だった。言葉だけよりもよほど頼もしい。
ヴィヴィオが寝ている部屋でしたこともあった。抗う術は既になく、彼女が良いと言うなら喜んでした。
幼子が穏かな寝息を立てている部屋で、肌を全てを露出させられたときは流石に罪悪じみたものを感じたが、声が漏れないよう布を咥えさせられればそれも途切れる。視界を閉ざされ、声も発せられないとどうでも良くなるのだ。益々感覚が鋭くなり、押し寄せる快楽に堪えきれず布を取りこぼしてしまえば、相応の仕打ちを受けた。肉体的ではない、精神的にだ。一週間の放置もあった。彼女と他の人が抱き合っていて、それらを撮影した映像を見せられたこともあった。
こうして自身の精神は壊され、狂気に侵されていく。――それは私の望んだまま、求めるままに。
部屋に閉じこもりがちになった。そんな私にヴィヴィオが話しかける。
「ティアナお姉ちゃん、最近あんまり元気ないよ、どうしたの?」
「……」
「お姉ちゃん?」
「……ああ、ヴィヴィオ。なんでもないわよ」
「それならいいんだけど。ねえ、身体の調子悪いんだったらちゃんと言わなきゃ駄目だよ。言えばなのはママがなんとかしてくれるから」
なのはママ?
なのは、ママ。ああ、なのはさんのことだっけ。
ヴィヴィオはなのはさんの子供で、なのはさんはヴィヴィオのママ。そういえばそう。
最近なのはさんは夜、あまり部屋に来てくれなくなった。また忙しくなったのだろうか、それとも他の人と逢瀬を重ねているのだろうか。いずれにせよ私に興味を失っていくのは時間の問題かもしれない。そうなったらここを追い出されるのだろう。
「お姉ちゃん、首輪してるけどどうして?」
数日経ってまたヴィヴィオが部屋を訪れた。
なのはさんはやっぱり来てくれない。今日もご飯を三人で食べてヴィヴィオを寝かしつけて、家を出て行った。夜に目が覚めてしまったのだろうヴィヴィオは、小さな手で片目をごしごしと擦っている。以前の私なら可愛らしく思っただろうその仕草に、何の感動もなかった。
「これはね」
私はこの部屋にいる時は絶えずはめるようになった首輪をそっと両手で握り締め、微笑んだ。
「あたしとなのはさんとの唯一の絆よ」
恍惚とした自身の表情にヴィヴィオが本能的に身を怯ませたとしても、その異常さにもはや自分が気付くことはない。私の世界にはなのはさんしかいなかったのだ。
そして私はまた、なのはさんを待つ日々を過ごす。ずっとずっと過ごしていく。それが幸せだと謳いながら。
今日はなのはさんが部屋に来てくれた。久し振りだったので力いっぱいに抱きついた。なのはさんも抱き締めてくれた。それだけで私は満足する事が出来る。
「なのはさん、寂しかったです」
「ごめんね」
「いえ、これからいっぱい抱いてくれれば……」
「そうだね、たくさん抱くよ」
「はい……、お願いします」
「可愛い声で鳴いてね、ティアナ」
にこりと笑顔をくれる。一番大好きな笑顔に私は蕩ける。今まで待たされたことなんてどうでも良くなる。
「好きです、なのはさん」
「ああ……、うん」
「なのはさんのこと、愛しています」
なのはさん。
なのはさんなのはさんなのはさん。
ずっと私のことだけ見てくれれば良いのに。
ふとそんな想いが過ぎる。独占欲。今までなかったのが不思議なほどあって当然の感情が、突然襲ってきた。
この胸に抱かれるのが自分だけであって欲しい。誰にもこの温度を感じて欲しくない。誰にもこの笑顔を見られたくない。
それがこれまでの反動なのかは分からないが、今私が感じているのは、歪なまで強固に捻じ曲げられた感情だった。彼女以外の全てのものが歪んでいく。
どうしようもなく、どうしようもない。
――だから部屋の隅に転がるかつての相棒を見つけて、私の想いは弾けた。
なのはさんが私の腰を抱えこんで、深く互いのものを擦り合わせる。時には魔力で生成したモノで繋がることもあったけれど、今日は違う。肌を合わせ全身で感じていた。私のをなのはさんが舌で掬い取っては、奥へ押し込んだ。どちらのものとつかない喘ぎ声が部屋中を満たしていた。もしかして漏れていたかもしれないけれど、やはり自分にとってはどうでもいいこと。
自身を愛撫してくれるなのはさんの頭に手を添えながら、もう一方でクロスミラージュを掴む。
いつだったか、なのはさんと訓練をしていたことが遠い記憶のように思えた。自分を必死に研磨し、なのはさんに少しでも頼りにされたくて日夜努力を惜しまなかった。機動六課にいた頃が、思えば一番幸せだったのか。そうなんだろうねでもやっぱり判らない。何が良かったのかなんて、そんなの誰にもわからないんだ。
だから一番簡単かつ明瞭な方法で。なのはさんに愛されている最も幸せな今、時間を止めることで終わらせよう。
僅かに残された抗う力で、そっと彼女と自分を打ち抜こうと、指に力を込める。
銃声が鳴った。
◇
いっそ人形のように考える力を奪ってくれていたらと思った。
狂わせたのは、大好きななのはさんの笑顔。
なのはさんが部屋に訪れた時、ティアナ・ランスターの全てが始まって終わった。
[ WEB CLAP ]
普通に考えれば返り討ちでしょうけど、それでもなのはさんの残された良心であえてティアナの攻撃を受けたかもしれませんし、攻撃をくいとめて説得し、心を入れ替えたなのはさんがティアナを大切にするようになったかもしれません。
なのティアを書くと必ず暗い雰囲気になるよ。。でもヤンデレは楽しいです。
ただ目指したのはヤンデレというか、壊れたティアナ。となのはさん。
※性的描写を含みます。
それでもよろしければ、続きよりどうぞ。
失われた部分と残された部分
あの人が初めて部屋に訪れた日から、私は狂い始めていたのかもしれない。
「今日も来ないな……」
仕事を終えて暗い部屋に辿り着くと、まずシャワーを浴びて身奇麗にする。それからじっとベッドに座り壁に背を凭れる。両手で握る端末がその中で点滅してくれる事を願いながら、私は独り呟いていた。
なのはさんが来なくなってから一週間が経ち、二週間が経った。
彼女が多忙の中にいることは知っていた。管理局でなのはさんを探すことはしない。時間は無かったが作ろうと思えばできたのだろう、なのに実際に私はなのはさんを探さなかった。広い局内で都合よく見つかると思えなかったし、さすればその時の落胆は予想できる。むしろあって然るべきものだった。
しかし落胆以上に会いたかったのは事実だが、それを押し止めるだけのものがあった。恐怖だ。なのはさんに飽きられてしまったかもしれないという恐怖に身体が縛られて一歩たりとも動く事が出来なかった。彼女は自分などさっさと見切りをつけ、他の子を構うようになってしまったのではないか。
仕事が忙しくてよかったと思う。でなければ思考はすべてなのはさん一色に塗り固められてしまっていただろうから。
フェイトさんの後について行く。その先で、または後ろで補佐をする。合間になのはさんのことを考えては自分を諫めたが、直ぐにまたなのはさんが思考に入り込んできた。フェイトさんならなのはさんの現状を知っているかもしれないが、尋ねはしない。そもそもそういう選択肢が浮ばないほどに切迫していた。
そうしたある日のことだ。任務を滞りなくこなしつつ、廊下を歩いていた時である。
なのはさんがいた。
教導隊の制服を着たなのはさんの姿を見たとき、心臓が停止したような錯覚さえ覚えた。直後心拍数が跳ね上がった。私が彼女の長く綺麗な髪を見つけることができたのは、本当に偶然だった。
張りつめた心が弾ける。なのはさんの腕を引いて、有無を言わさずに一番近くにあった仮眠室へと引き摺り込んだ。喋る間も与えず唇を貪る。お互いの息が乱れても止まない接吻の繰り返しを十数分ばかり繰り返した。長くて短かった。
「ティアナ。私仕事がまだ……」
「二週間なんて、長すぎますよ」
息を整えつつ困惑した表情を浮かべる彼女だったが、私はこんなものでは全然足らないのだ。
「もうあたしから離れないでください。……離れていたくない」
再びなのはさんにキスをした。身体を引いてベッドに倒れこむ。なのはさんが上になりながら、それでもなおどうしようかと迷っている様子が伝わってきて、自分の中に苛立ちが生まれるのを感じた。
「自分の中はなのはさんでいっぱいなんです」
肩に手を添えて彼女を引き寄せる。
「キスだけでこんなになっちゃいました」
口元を笑みの形に歪めて、彼女の指を内股の湿った部分に誘う。彼女の細い指に潰されるように、微かな音がした。そのまま動かし、溢れさせていく。自分のものではない、なのはさんの指が触れているのだと思うとそれだけで更なる快楽が浸透してくる。
「悪い子だね、ティアナは」
「はい」
「悪い子にはちゃんとした躾けをしないといけないかな」
「飼って、くれるんですか?」
「ああ、そうだね。じゃあティアナ……うちに来る?」
望むのなら、飼ってあげるよ。
甘く溶けるようななのはさんの声が、深く刻み込まれた傷に吸い込まれていった。じくじくと疼く全身のあちこちに触れられて、力が抜けていく。彼女がいないと生きていけないというのは、この二週間で思い知った。
飼うという言葉は明くも甘美な誘いで、自分にその誘いを断る理由は何一つとしてなかった。
彼女の家の一室に、自分の部屋を宛てがわれた。準備が進められ、いざその部屋に着くと私は歓喜した。これからここで飼ってもらえるのだと思うと、全身が喜びに打ち震える。今まで抱かれても好きだと囁かれても、彼女と繋がっているという実感はなかった。
ようやく私はなのはさんの所有物になれたんだ。
まず局を辞めた。兄への罪悪感はあったけれど、それすらこの一年の間のなのはさんへの想いに対してはちっぽけなものに成り果てていた。
私はそれから家政婦みたいなことをするようになっていた。今まで雇っていた人は解雇したらしい。ヴィヴィオの見送りは出来る限りなのはさんがし、毎晩遅くに帰宅する彼女の代わりに迎えは自分が行き、クロスミラージュをなのはさんの計らいで手元に残してもらっていた私は、ヴィヴィオとの仮想訓練に付き合ったり遊び相手になったりした。それから夕食の仕度をして、なのはさんが仕事から帰ると三人でご飯を食べる。一見すれば家族のように見えなくもなかったが、根本は全くの別物であることを、私は知っていた。
夜、ヴィヴィオを寝かせてから部屋に彼女が忍び込んでくる。以前のように上辺だけの拒絶の意思を示すことはない。むしろ喜んで受け入れる。拒絶した方がなのはさんは喜ぶのだろうがしかし、私にはそんな計算を含んだ取り引きはきなかった。
ただ求める。なのはさんを求めている。始まってしまえば理性の欠片も残りはしない。自分に纏わりつくすべてを金繰り捨てて彼女に抱きついた。
丁寧に髪を撫でてくれるなのはさん。愛しい声で名前を呼んでくれるなのはさん。鳴いてみせればそれだけ喜んでくれるなのはさんにただしがみつく。待ち望んだ彼女の温度と感触を求め、私は狂ったように腰を振った。慎みなど一切なく、官能の坩堝に潜り込むようにして溺れていく。
月明かりが差し込んでいた。
暗い部屋に差し込んだ光が、髪や身体を透き通って心の芯を照らしつけた。始めは部屋の中でだけだった行為も、次第とエスカレートしていき、外にまで出るようになった。外を出歩く時、私は特注の猫用の首輪を嵌められ、鎖に繋がれていた。その事に私は更なる満足感を得た。何故ならその鎖を握っているのは他でもないなのはさんだったのだから。
肌に纏わりつく狂気さえ心地良く、私はさも当然のこととして受け入れていたのだ。
そうして私は、……私たちは狂っていく。ごく自然に。
なのはさんが私だけを見ていないことは予め気付かされていた。だが彼女が自分を見てくれているなら、それでも構わないと思っていた。
首輪と鎖がなのはさんと自分を繋ぐ何よりの証だった。言葉だけよりもよほど頼もしい。
ヴィヴィオが寝ている部屋でしたこともあった。抗う術は既になく、彼女が良いと言うなら喜んでした。
幼子が穏かな寝息を立てている部屋で、肌を全てを露出させられたときは流石に罪悪じみたものを感じたが、声が漏れないよう布を咥えさせられればそれも途切れる。視界を閉ざされ、声も発せられないとどうでも良くなるのだ。益々感覚が鋭くなり、押し寄せる快楽に堪えきれず布を取りこぼしてしまえば、相応の仕打ちを受けた。肉体的ではない、精神的にだ。一週間の放置もあった。彼女と他の人が抱き合っていて、それらを撮影した映像を見せられたこともあった。
こうして自身の精神は壊され、狂気に侵されていく。――それは私の望んだまま、求めるままに。
部屋に閉じこもりがちになった。そんな私にヴィヴィオが話しかける。
「ティアナお姉ちゃん、最近あんまり元気ないよ、どうしたの?」
「……」
「お姉ちゃん?」
「……ああ、ヴィヴィオ。なんでもないわよ」
「それならいいんだけど。ねえ、身体の調子悪いんだったらちゃんと言わなきゃ駄目だよ。言えばなのはママがなんとかしてくれるから」
なのはママ?
なのは、ママ。ああ、なのはさんのことだっけ。
ヴィヴィオはなのはさんの子供で、なのはさんはヴィヴィオのママ。そういえばそう。
最近なのはさんは夜、あまり部屋に来てくれなくなった。また忙しくなったのだろうか、それとも他の人と逢瀬を重ねているのだろうか。いずれにせよ私に興味を失っていくのは時間の問題かもしれない。そうなったらここを追い出されるのだろう。
「お姉ちゃん、首輪してるけどどうして?」
数日経ってまたヴィヴィオが部屋を訪れた。
なのはさんはやっぱり来てくれない。今日もご飯を三人で食べてヴィヴィオを寝かしつけて、家を出て行った。夜に目が覚めてしまったのだろうヴィヴィオは、小さな手で片目をごしごしと擦っている。以前の私なら可愛らしく思っただろうその仕草に、何の感動もなかった。
「これはね」
私はこの部屋にいる時は絶えずはめるようになった首輪をそっと両手で握り締め、微笑んだ。
「あたしとなのはさんとの唯一の絆よ」
恍惚とした自身の表情にヴィヴィオが本能的に身を怯ませたとしても、その異常さにもはや自分が気付くことはない。私の世界にはなのはさんしかいなかったのだ。
そして私はまた、なのはさんを待つ日々を過ごす。ずっとずっと過ごしていく。それが幸せだと謳いながら。
今日はなのはさんが部屋に来てくれた。久し振りだったので力いっぱいに抱きついた。なのはさんも抱き締めてくれた。それだけで私は満足する事が出来る。
「なのはさん、寂しかったです」
「ごめんね」
「いえ、これからいっぱい抱いてくれれば……」
「そうだね、たくさん抱くよ」
「はい……、お願いします」
「可愛い声で鳴いてね、ティアナ」
にこりと笑顔をくれる。一番大好きな笑顔に私は蕩ける。今まで待たされたことなんてどうでも良くなる。
「好きです、なのはさん」
「ああ……、うん」
「なのはさんのこと、愛しています」
なのはさん。
なのはさんなのはさんなのはさん。
ずっと私のことだけ見てくれれば良いのに。
ふとそんな想いが過ぎる。独占欲。今までなかったのが不思議なほどあって当然の感情が、突然襲ってきた。
この胸に抱かれるのが自分だけであって欲しい。誰にもこの温度を感じて欲しくない。誰にもこの笑顔を見られたくない。
それがこれまでの反動なのかは分からないが、今私が感じているのは、歪なまで強固に捻じ曲げられた感情だった。彼女以外の全てのものが歪んでいく。
どうしようもなく、どうしようもない。
――だから部屋の隅に転がるかつての相棒を見つけて、私の想いは弾けた。
なのはさんが私の腰を抱えこんで、深く互いのものを擦り合わせる。時には魔力で生成したモノで繋がることもあったけれど、今日は違う。肌を合わせ全身で感じていた。私のをなのはさんが舌で掬い取っては、奥へ押し込んだ。どちらのものとつかない喘ぎ声が部屋中を満たしていた。もしかして漏れていたかもしれないけれど、やはり自分にとってはどうでもいいこと。
自身を愛撫してくれるなのはさんの頭に手を添えながら、もう一方でクロスミラージュを掴む。
いつだったか、なのはさんと訓練をしていたことが遠い記憶のように思えた。自分を必死に研磨し、なのはさんに少しでも頼りにされたくて日夜努力を惜しまなかった。機動六課にいた頃が、思えば一番幸せだったのか。そうなんだろうねでもやっぱり判らない。何が良かったのかなんて、そんなの誰にもわからないんだ。
だから一番簡単かつ明瞭な方法で。なのはさんに愛されている最も幸せな今、時間を止めることで終わらせよう。
僅かに残された抗う力で、そっと彼女と自分を打ち抜こうと、指に力を込める。
銃声が鳴った。
◇
いっそ人形のように考える力を奪ってくれていたらと思った。
狂わせたのは、大好きななのはさんの笑顔。
なのはさんが部屋に訪れた時、ティアナ・ランスターの全てが始まって終わった。
[ WEB CLAP ]
普通に考えれば返り討ちでしょうけど、それでもなのはさんの残された良心であえてティアナの攻撃を受けたかもしれませんし、攻撃をくいとめて説得し、心を入れ替えたなのはさんがティアナを大切にするようになったかもしれません。
● COMMENT FORM ●
>ユリかもめさん
なのティアにはヤンデレが似合う。
最後は、どんなものであれ、ティアナにとって幸せな結末になったことかと。
返り討ちにあってなのはさんに撃たれたとしても、それはそれでやはりティアナにとっては幸せなのです。いっしょに逝ければそれでもしあわせ。一番辛いのは実はなのはさんに愛されることかな、なんて。そんな歪んだ愛が大好きです。
なのティアにはヤンデレが似合う。
最後は、どんなものであれ、ティアナにとって幸せな結末になったことかと。
返り討ちにあってなのはさんに撃たれたとしても、それはそれでやはりティアナにとっては幸せなのです。いっしょに逝ければそれでもしあわせ。一番辛いのは実はなのはさんに愛されることかな、なんて。そんな歪んだ愛が大好きです。
昔は苦手だったダーク系も、今では読めるようになっちゃった。
最後が衝撃的すぎて、マジあんぐりです。