その境界線は。
高町なのはを全力全開で愛していく。そんな小説を書いてます。
擬似家族 2007/11/09
ヴィヴィオ(大)×なのは。
1万HITでリクエストしていただいたものです。
量のわりにかかった時間が異常でした。
うぐ、、もっと精進せねばですね。
それでは続きよりどうぞ。
擬似家族
そんなに広くない庭と、そんなに広くない玄関を潜り抜けた高町の家。その先にある台所から朗らかな談笑が聞こえてきたら、まさしくそれはある一つの家族の姿。一人の母親と一人の娘が仲睦まじく暮らしていれば、それこそ血など関係のないものである。そう、私自身は思っている。
ほんの少しの寂寥が胸に刺さった杭に引っかかるようにしてぶら下がっているのを除けば、比較的穏かな家族の風景が描かれる。
「最近フェイトさん来ないね」
何気ない午後の昼下がり、自分の口からはここのところ感じていた疑問が、何気ない会話の中でこぼれた。
今日は休日で、昼前頃に三十分ばかり近所のスーパーへ買物に行っていた事を除けば、珍しくも一日中彼女は部屋にいた。それにもちろん私はついていき、彼女の促すままに欲しいものをいくつかねだった。本当はそのつもりはなかったけれど、遠慮しすぎるのも悲しませるだけだと適当に選んだ。
昼食には私の要望のままに料理をしてくれた。今にも美味しげな匂いが鼻腔を突き、食欲がそそられる。彼女の母が喫茶店を営んでいる所為か、彼女自身料理が上手い。包丁捌きはさほどではないかもしれないが、少なくとも味付けに関しては完璧で、私は彼女の手料理が世界中で一番好きだった。
食事を片付ける彼女を手伝おうとして遮られ、持て余すようにごろごろと床を転がる。軽く窘められればひとまず座椅子に落ち着くが、やはり浮き足は立った。普段は忙しくしている彼女が、今日はずっと傍にいてくれるのだと思うと、それだけで嬉しくなるものだ。
「そういえば」
だからつい、そんな言葉がこぼれ出てしまったのかもしれない。
エプロンがひらひらと腰の辺りで踊る。きゅっと蛇口が捻られて、彼女が此方を振り向く。ゆったりとしたセーターに、膝下まで伸びるロングスカートは彼女によく似合っていた。
「最近フェイトさん来ないね」
出逢い始めの頃は『フェイトママ』としていた呼称も、いつの間にか『フェイトさん』に変化したのは成長とそれに伴う心境の移りによるものなのだろう。もう一つ心にかかるものの意味は追求しないまま、私は振り返る彼女の表情を探るように見上げた。
「突然どうしたの、ヴィヴィオ」
そうして私はその短い言葉の中に、滅多なことでは見せない狼狽を探り当てる。
「ううん、ただ以前まではそれこそ頻繁以上に遊びに来ていたのに、ここのところめっきり姿を見せなくなったなって思ってさ」
「そう、でも心配はないよ。仕事が忙しいみたいで噛み合わないだけだから」
「それならいいんだけれど」
と言いながら腰を上げ、彼女の背後に歩み寄る。再び洗いものを始めた彼女に振り返る時間を与えることなく、後ろから腰に手を回した。
今日は冷える。だからそこそこに服を着込んでいるはずなのに、驚くほどほっそりとした腰周りをしていて、思わぬ力が込められてしまった。そんな言い訳を後でしてみようか、なんて頭の隅で考えを及ばせながら、「嘘だよね」と耳元で囁いた。
「あの人が仕事が忙しいくらいでなのはママに会う事を疎むわけないよ。少しの時間を見つけて会おうとするに違いないんだから、ママだって分かってるんでしょ。だからそんなの、嘘にもならない」
「そんなこと……」
「言い切れるの?」
腕に力を込めながら、更に追い討ちをかけてみた。彼女は一呼吸して、腰に絡まる腕を解く。私も抵抗することなくそれに従った。
「ヴィヴィオにはどうしても敵わないみたいだね」
「当たり前だよ。だってヴィヴィオだもん。……世界で一番なのはママのこと愛してるのは私なんだから」
「その言葉を聞くのは久し振りかもしれないな」
「もう、誤魔化さないで」
ごめん、と彼女は苦笑して、頭を撫でる。彼女よりも身長が高いから頭を撫でるのも一苦労のようで、背伸びをしてからよしよしとしてくれる。嬉しいようなくすぐったいような、胸に広がる甘ったるい感情に溺れかけて、慌てて諫める。なぜなら見上げる彼女の表情には昏い影が出来ていたのだから。
「なのは……、ママ?」
「フェイトちゃんが来なくなったのは私のせいなの。ヴィヴィオがいないときに遊びに来てくれたんだけどね、そこで」
「告白されたんだ?」
くるりと、瞳をころがした。丸く大きな瞳が可愛くて。言葉を先取りする。尋ねたのは自分だというのに、酷いだろうか。でも彼女も悪い。頬を染めたりなんかするから。
「好きだよって? 溶けるような声で、名前を囁かれながら言われたの?」
「ヴィヴィオ、もしかして聞いて……?」
「まさか。だけどなのはママがそんな顔する相手なんて他にいないよ」
そうだね。と彼女は言った。そうだよ、と私は頷いた。
「きっと私のことを一番分かってるのは、ヴィヴィオなんだろうね」
「どうかな」
「自信もって頷いてくれると思ったんだけどな」
「頷きたいけど、やっぱりフェイトさんを越える自信はまだないよ」
「そっか」
「だけどいつかは越える。……ねえ、なのはママ」
「ん、なあに」
「フェイトさんのこと、振っちゃったんだね」
ヤカンが沸騰し、甲高い声を上げた。食後のティータイムにと沸かしてくれていたのだろう、一種の汽笛のように耳をつんざき、会話に横槍を入れる。彼女がヤカンに向かう前の一刹那、小さく微笑んだような気がしたけれど、それも定かではなく。立ちっ放しだった私たちはテーブルにつくことになった。
整然とした静けさの中でカチャカチャと金属と陶器が触れ合う温かな音が二人の間に横たわっていた。交わされる会話は何も無い。テレビさえ電源を入れることなく、私は熱い紅茶に口を付ける。少量の砂糖を含んだ紅茶は適度な温度で喉を通り、体の中から温められていく感覚に浸されていく。目の前で紅茶をすする彼女も、音を立てずに同じ時間をやり過ごした。
一つの話題が、宙に浮かんだままになっていた。
触れれば届く位置にあるそれは風船みたいにぷかぷかと浮遊していて、だけと手を伸ばした瞬間に紐は遠ざかっていく。どうしてだろう、幼子がいくらジャンプしても届かない高さにあるのとは違う。本当に目の前にあった。なのに触れることができないもどかしさに、苛立ちさえ感じていたのではなかったか。
私と彼女、親子という関係。血の繋がりなど無くても、誰よりも愛し愛されているという自覚はある。しかし幸せな今までだったが、同時に親子という関係が若干疎ましく感じてもいた。
そしてそこには必ず、『フェイトママ』ではなく『フェイトさん』と呼び始めた本当の理由も孕んでいたに違いない。それは今まで私がずっと避けてきた問題だったのだ。
私が彼女に愛していると幾ら想いを込めて告げても、やはり子が親に言う微笑ましいものでしかない。さっきだってそうだ。何気なく会話の中で言った言葉に含めた想いなんて、彼女は気付きもしない。
好きと言えば言うだけ彼女は嬉しそうな顔をして、私もだよ、なんて返してくれる。最初のうちは、私も嬉しかった。そんな一言で彼女を喜ばせる事が出来るのならといくらでも言った。
だけど次第に、そう、自分の、母に対するものではない想いに気付いてから苦しくなった。昏い池に小石を投げ入れられるような錯覚を覚えた。微笑まれれば、首まで真っ赤になって、やたら照れくさくなった。
「多分、フェイトちゃんはもう来ないよ」
どうして今日だったんだろう。
せっかく一日中居てくれる日なのに。こんな重苦しい空気になんてしたくないのに。
「ヴィヴィオの言うとおりだから」
今日しかないのだろう。
頷いて、カップを静かに置いた。俯いたまま揺れる薄紅色の水面を眺める。揺れている。
判決を待つ被告人のような心持ちで、私は言葉の続きを待った。
「……ヴィヴィオ」
「っ、え?」
「そんな顔をされると辛いよ」
「ごめん、なさい」
「今日のヴィヴィオはなんだか素直だね」
「あ、で、でもなのはママも大人しいよ」
「そうかな」
「そうだよ。でも私の大好きななのはママだよ」
言いたくないのか、彼女はなかなか話を進めようとしない。それならばそれでいいと思った。
「フェイトさんが家に来た時、本当は私」
――私が言うだけだから。
「嬉しくもあったけど、ちょっとだけ嫌だった」
私が言えばいいんだ。
ジャンプしても風船の紐に届かないなら、空を飛べばいいんだ。
「だってなのはママのこと盗ろうとするんだよ。私の大好きななのはママのこと、奪っていっちゃおうとするんだもん。嫌な子供だって分かってるけど、だってどうしようもないの。誰にでも笑顔を振りまく夏の花みたいな貴女の子供でなんとかいようとして、苦しくて押さえて。それなのにママは優しくしてくれる。子供だから当たり前なのかもしれないけれど、でもその優しさが痛くて。子供でいようとして、子供のように思われるのが嫌なんて、そんな矛盾してる自分も大嫌い」
言葉の意図するものを理解してくれたのかは分からない。彼女は終止無言で聞いてくれる。少しは取り乱して欲しいのに、変わらずに彼女はじっと座っているばかりだった。表情を汲み取る余裕は……なかった。
「私、なのはママの子供じゃもういやだよ」
痛い。
「貴女の恋人になりたい」
どうしてこんなに痛いんだろう。愛の告白なのに、どうして胸が痛んだりするんだろう。
こういうものはちょっとした胸のどきどきを押さえながら、相手の返事を不安半分、期待半分で待つものだってクラスの友達は言っていたのに、今心の中にそんな甘酸っぱい感情なんて一つも湧き上がってはこない。
目の前の綺麗な人を力のままに抱き締め、自分のものにしてしまいたいと暴れる欲望を無理矢理押さえ込むように、吐き出した言葉が上滑りしていく。
ぶつけるだけ。狭い個室にさんざん押し込めたものが吐き出されただけ。
「今まで我慢したけど、やっぱり駄目だった。もう耐えられないよ」
立ち上がって彼女の背後にまわる。抱き締めることはなく、肩に両手を乗せ、頭を突く。。
我が侭で、困らせるだけの涙を流して。子供でいたくないと自分がいっているのに、どうすればいいのかなんてちっとも考えずに行動するなんて、やはり子供の所業でしかない。
だけど心が暴走する。突き進めと叫ぶ。
――もう少し大人ならよかった。
十五歳なんかじゃなく、もっと十分に歳をとってから。自分の気持ちを制御できるような年齢になってから好きになればよかった。痛みの無い落ち着いた恋のできる年齢に。
だけど、と思う。その時はもう、恋じゃないのかもしれないと。そして制御できる恋は恋ではない。痛みの無い恋もまた恋ではない。
焦がれ焼き切られんとするほどの愛しみと哀しみの入り混じった想いが、全てを後押しする。
二人の間に横たわるもの全て無視しても構わないと思ってしまうくらいの狂った感情が、全身を蝕んではほくそ笑む。
――だけど。
「ごめんね、ヴィヴィオ」
だけど相手がそう思ってくれていなかったら?
「……好き」
「ごめん、ヴィヴィオ」
「好きだよ」
「……ヴィヴィオ」
「なのはさん!」
小さく笑うだけの彼女の顔を引き寄せた。唇をきつく吸うと上品な紅茶の香りと味が感じられたが、それすらも岸の向こう側に追い遣られてしまった。
なのはさんの匂い。なのはさんの味。
受け入れることも拒絶することもない彼女を、強引に奪おうとして、奪えない。
「どうして、なのはさん」
いっそ拒絶してくれればいいのに。
浅く息を整える彼女を見下ろした。きつく閉じた瞼の間から、それでも想いが放流する。
「子供だから? 私が貴女の子供だからだめなの?」
彼女は答えない。分からない。私は間違ってるの?……きっと間違っているんだろうね。
「それとも他に好きな人がいるの」
問うとなのはさんは力なく頭を振って、違うよ、と呟いた。
「じゃあ……、私のこと、嫌いなんだ」
「好きだよ」
要領の得ない返答に、涙を浮かべたまま見詰める。好きだよ、という言葉がとてもその場しのぎのものには思えなくて取り乱しかけ――。
「よく聞いて、ヴィヴィオ」
「ぁ……」
ふっと包まれる。抱き込まれるようにして下から腕を伸ばし、体が触れ合う。
自身よりも小さな体躯、だけど自身よりも大きななのはさんの温度が心地良くて、闇の中を駆けずり回っていた自らの心が落ち着きを取り戻していく。
それから宥めるように彼女は囁いた。
「私はまだ、ヴィヴィオの“なのはさん”にはなれないの。どうやっても私は母親だから」
「……そんなのは」
「関係ない、なんていうのは嘘だよね。だから少し待って欲しい」
とくとくと、心臓の音が伝わってくる。幼子があやされるように、私は彼女の胸の鼓動に安心していた。
これから彼女が何を言おうと、きっと頷いてしまうに違いない。
「ヴィヴィオが大人になって、それでもまだ私のことを好きでいてくれるなら、……」
「恋人になってくれる?」
体を離し、“なのはママ”はゆっくりと頷く。
その笑顔は、今まで見たどの笑顔よりも柔らかく温かいものだった。
◇
青空を駆ける虹色の閃光。薄っすらと浮かぶのは微笑。
久し振りの、だけどもう離れることは無いあの人との空だった。
肺にいっぱいの空気が流れ込んでくる。隣を突き抜けるように飛翔するのは、やっぱり自分の大好きな人。蒼く綺麗な瞳をした大切な恋人の彼女が微笑んでいる。
「さあ、行こうかヴィヴイオ」
「うん、なのはさん!」
空を駆ける閃光は二つ。怖いものは彼女以外、もう何もなかった。
× あとがき ×
そんなわけでヴィヴィなのです。ヴィヴィオへたれ攻め?
大人ヴィヴィの心情がなかなか掴めませんでした。公式で殆どでていないだけになかなか。ただヴィヴィオは察しのいい子だと思いますよ。なのはさんのこと分かってあげられる子だと。そして辛い時には支えてくれるだろうと。ヴィヴィオもなのはの騎士です。
あまりここでは関係ありませんが、大人ヴィヴィはツンデレぽいイメージです。メガマガに「最近はちょっと恥ずかしいのであまりいいませんが、わたしはやっぱりなのはママが大好きです」なんて書いてるのが悪いんだ!…最高です。本当に有り難うございました。
1万HITでリクエストしていただいたものです。
量のわりにかかった時間が異常でした。
うぐ、、もっと精進せねばですね。
それでは続きよりどうぞ。
擬似家族
そんなに広くない庭と、そんなに広くない玄関を潜り抜けた高町の家。その先にある台所から朗らかな談笑が聞こえてきたら、まさしくそれはある一つの家族の姿。一人の母親と一人の娘が仲睦まじく暮らしていれば、それこそ血など関係のないものである。そう、私自身は思っている。
ほんの少しの寂寥が胸に刺さった杭に引っかかるようにしてぶら下がっているのを除けば、比較的穏かな家族の風景が描かれる。
「最近フェイトさん来ないね」
何気ない午後の昼下がり、自分の口からはここのところ感じていた疑問が、何気ない会話の中でこぼれた。
今日は休日で、昼前頃に三十分ばかり近所のスーパーへ買物に行っていた事を除けば、珍しくも一日中彼女は部屋にいた。それにもちろん私はついていき、彼女の促すままに欲しいものをいくつかねだった。本当はそのつもりはなかったけれど、遠慮しすぎるのも悲しませるだけだと適当に選んだ。
昼食には私の要望のままに料理をしてくれた。今にも美味しげな匂いが鼻腔を突き、食欲がそそられる。彼女の母が喫茶店を営んでいる所為か、彼女自身料理が上手い。包丁捌きはさほどではないかもしれないが、少なくとも味付けに関しては完璧で、私は彼女の手料理が世界中で一番好きだった。
食事を片付ける彼女を手伝おうとして遮られ、持て余すようにごろごろと床を転がる。軽く窘められればひとまず座椅子に落ち着くが、やはり浮き足は立った。普段は忙しくしている彼女が、今日はずっと傍にいてくれるのだと思うと、それだけで嬉しくなるものだ。
「そういえば」
だからつい、そんな言葉がこぼれ出てしまったのかもしれない。
エプロンがひらひらと腰の辺りで踊る。きゅっと蛇口が捻られて、彼女が此方を振り向く。ゆったりとしたセーターに、膝下まで伸びるロングスカートは彼女によく似合っていた。
「最近フェイトさん来ないね」
出逢い始めの頃は『フェイトママ』としていた呼称も、いつの間にか『フェイトさん』に変化したのは成長とそれに伴う心境の移りによるものなのだろう。もう一つ心にかかるものの意味は追求しないまま、私は振り返る彼女の表情を探るように見上げた。
「突然どうしたの、ヴィヴィオ」
そうして私はその短い言葉の中に、滅多なことでは見せない狼狽を探り当てる。
「ううん、ただ以前まではそれこそ頻繁以上に遊びに来ていたのに、ここのところめっきり姿を見せなくなったなって思ってさ」
「そう、でも心配はないよ。仕事が忙しいみたいで噛み合わないだけだから」
「それならいいんだけれど」
と言いながら腰を上げ、彼女の背後に歩み寄る。再び洗いものを始めた彼女に振り返る時間を与えることなく、後ろから腰に手を回した。
今日は冷える。だからそこそこに服を着込んでいるはずなのに、驚くほどほっそりとした腰周りをしていて、思わぬ力が込められてしまった。そんな言い訳を後でしてみようか、なんて頭の隅で考えを及ばせながら、「嘘だよね」と耳元で囁いた。
「あの人が仕事が忙しいくらいでなのはママに会う事を疎むわけないよ。少しの時間を見つけて会おうとするに違いないんだから、ママだって分かってるんでしょ。だからそんなの、嘘にもならない」
「そんなこと……」
「言い切れるの?」
腕に力を込めながら、更に追い討ちをかけてみた。彼女は一呼吸して、腰に絡まる腕を解く。私も抵抗することなくそれに従った。
「ヴィヴィオにはどうしても敵わないみたいだね」
「当たり前だよ。だってヴィヴィオだもん。……世界で一番なのはママのこと愛してるのは私なんだから」
「その言葉を聞くのは久し振りかもしれないな」
「もう、誤魔化さないで」
ごめん、と彼女は苦笑して、頭を撫でる。彼女よりも身長が高いから頭を撫でるのも一苦労のようで、背伸びをしてからよしよしとしてくれる。嬉しいようなくすぐったいような、胸に広がる甘ったるい感情に溺れかけて、慌てて諫める。なぜなら見上げる彼女の表情には昏い影が出来ていたのだから。
「なのは……、ママ?」
「フェイトちゃんが来なくなったのは私のせいなの。ヴィヴィオがいないときに遊びに来てくれたんだけどね、そこで」
「告白されたんだ?」
くるりと、瞳をころがした。丸く大きな瞳が可愛くて。言葉を先取りする。尋ねたのは自分だというのに、酷いだろうか。でも彼女も悪い。頬を染めたりなんかするから。
「好きだよって? 溶けるような声で、名前を囁かれながら言われたの?」
「ヴィヴィオ、もしかして聞いて……?」
「まさか。だけどなのはママがそんな顔する相手なんて他にいないよ」
そうだね。と彼女は言った。そうだよ、と私は頷いた。
「きっと私のことを一番分かってるのは、ヴィヴィオなんだろうね」
「どうかな」
「自信もって頷いてくれると思ったんだけどな」
「頷きたいけど、やっぱりフェイトさんを越える自信はまだないよ」
「そっか」
「だけどいつかは越える。……ねえ、なのはママ」
「ん、なあに」
「フェイトさんのこと、振っちゃったんだね」
ヤカンが沸騰し、甲高い声を上げた。食後のティータイムにと沸かしてくれていたのだろう、一種の汽笛のように耳をつんざき、会話に横槍を入れる。彼女がヤカンに向かう前の一刹那、小さく微笑んだような気がしたけれど、それも定かではなく。立ちっ放しだった私たちはテーブルにつくことになった。
整然とした静けさの中でカチャカチャと金属と陶器が触れ合う温かな音が二人の間に横たわっていた。交わされる会話は何も無い。テレビさえ電源を入れることなく、私は熱い紅茶に口を付ける。少量の砂糖を含んだ紅茶は適度な温度で喉を通り、体の中から温められていく感覚に浸されていく。目の前で紅茶をすする彼女も、音を立てずに同じ時間をやり過ごした。
一つの話題が、宙に浮かんだままになっていた。
触れれば届く位置にあるそれは風船みたいにぷかぷかと浮遊していて、だけと手を伸ばした瞬間に紐は遠ざかっていく。どうしてだろう、幼子がいくらジャンプしても届かない高さにあるのとは違う。本当に目の前にあった。なのに触れることができないもどかしさに、苛立ちさえ感じていたのではなかったか。
私と彼女、親子という関係。血の繋がりなど無くても、誰よりも愛し愛されているという自覚はある。しかし幸せな今までだったが、同時に親子という関係が若干疎ましく感じてもいた。
そしてそこには必ず、『フェイトママ』ではなく『フェイトさん』と呼び始めた本当の理由も孕んでいたに違いない。それは今まで私がずっと避けてきた問題だったのだ。
私が彼女に愛していると幾ら想いを込めて告げても、やはり子が親に言う微笑ましいものでしかない。さっきだってそうだ。何気なく会話の中で言った言葉に含めた想いなんて、彼女は気付きもしない。
好きと言えば言うだけ彼女は嬉しそうな顔をして、私もだよ、なんて返してくれる。最初のうちは、私も嬉しかった。そんな一言で彼女を喜ばせる事が出来るのならといくらでも言った。
だけど次第に、そう、自分の、母に対するものではない想いに気付いてから苦しくなった。昏い池に小石を投げ入れられるような錯覚を覚えた。微笑まれれば、首まで真っ赤になって、やたら照れくさくなった。
「多分、フェイトちゃんはもう来ないよ」
どうして今日だったんだろう。
せっかく一日中居てくれる日なのに。こんな重苦しい空気になんてしたくないのに。
「ヴィヴィオの言うとおりだから」
今日しかないのだろう。
頷いて、カップを静かに置いた。俯いたまま揺れる薄紅色の水面を眺める。揺れている。
判決を待つ被告人のような心持ちで、私は言葉の続きを待った。
「……ヴィヴィオ」
「っ、え?」
「そんな顔をされると辛いよ」
「ごめん、なさい」
「今日のヴィヴィオはなんだか素直だね」
「あ、で、でもなのはママも大人しいよ」
「そうかな」
「そうだよ。でも私の大好きななのはママだよ」
言いたくないのか、彼女はなかなか話を進めようとしない。それならばそれでいいと思った。
「フェイトさんが家に来た時、本当は私」
――私が言うだけだから。
「嬉しくもあったけど、ちょっとだけ嫌だった」
私が言えばいいんだ。
ジャンプしても風船の紐に届かないなら、空を飛べばいいんだ。
「だってなのはママのこと盗ろうとするんだよ。私の大好きななのはママのこと、奪っていっちゃおうとするんだもん。嫌な子供だって分かってるけど、だってどうしようもないの。誰にでも笑顔を振りまく夏の花みたいな貴女の子供でなんとかいようとして、苦しくて押さえて。それなのにママは優しくしてくれる。子供だから当たり前なのかもしれないけれど、でもその優しさが痛くて。子供でいようとして、子供のように思われるのが嫌なんて、そんな矛盾してる自分も大嫌い」
言葉の意図するものを理解してくれたのかは分からない。彼女は終止無言で聞いてくれる。少しは取り乱して欲しいのに、変わらずに彼女はじっと座っているばかりだった。表情を汲み取る余裕は……なかった。
「私、なのはママの子供じゃもういやだよ」
痛い。
「貴女の恋人になりたい」
どうしてこんなに痛いんだろう。愛の告白なのに、どうして胸が痛んだりするんだろう。
こういうものはちょっとした胸のどきどきを押さえながら、相手の返事を不安半分、期待半分で待つものだってクラスの友達は言っていたのに、今心の中にそんな甘酸っぱい感情なんて一つも湧き上がってはこない。
目の前の綺麗な人を力のままに抱き締め、自分のものにしてしまいたいと暴れる欲望を無理矢理押さえ込むように、吐き出した言葉が上滑りしていく。
ぶつけるだけ。狭い個室にさんざん押し込めたものが吐き出されただけ。
「今まで我慢したけど、やっぱり駄目だった。もう耐えられないよ」
立ち上がって彼女の背後にまわる。抱き締めることはなく、肩に両手を乗せ、頭を突く。。
我が侭で、困らせるだけの涙を流して。子供でいたくないと自分がいっているのに、どうすればいいのかなんてちっとも考えずに行動するなんて、やはり子供の所業でしかない。
だけど心が暴走する。突き進めと叫ぶ。
――もう少し大人ならよかった。
十五歳なんかじゃなく、もっと十分に歳をとってから。自分の気持ちを制御できるような年齢になってから好きになればよかった。痛みの無い落ち着いた恋のできる年齢に。
だけど、と思う。その時はもう、恋じゃないのかもしれないと。そして制御できる恋は恋ではない。痛みの無い恋もまた恋ではない。
焦がれ焼き切られんとするほどの愛しみと哀しみの入り混じった想いが、全てを後押しする。
二人の間に横たわるもの全て無視しても構わないと思ってしまうくらいの狂った感情が、全身を蝕んではほくそ笑む。
――だけど。
「ごめんね、ヴィヴィオ」
だけど相手がそう思ってくれていなかったら?
「……好き」
「ごめん、ヴィヴィオ」
「好きだよ」
「……ヴィヴィオ」
「なのはさん!」
小さく笑うだけの彼女の顔を引き寄せた。唇をきつく吸うと上品な紅茶の香りと味が感じられたが、それすらも岸の向こう側に追い遣られてしまった。
なのはさんの匂い。なのはさんの味。
受け入れることも拒絶することもない彼女を、強引に奪おうとして、奪えない。
「どうして、なのはさん」
いっそ拒絶してくれればいいのに。
浅く息を整える彼女を見下ろした。きつく閉じた瞼の間から、それでも想いが放流する。
「子供だから? 私が貴女の子供だからだめなの?」
彼女は答えない。分からない。私は間違ってるの?……きっと間違っているんだろうね。
「それとも他に好きな人がいるの」
問うとなのはさんは力なく頭を振って、違うよ、と呟いた。
「じゃあ……、私のこと、嫌いなんだ」
「好きだよ」
要領の得ない返答に、涙を浮かべたまま見詰める。好きだよ、という言葉がとてもその場しのぎのものには思えなくて取り乱しかけ――。
「よく聞いて、ヴィヴィオ」
「ぁ……」
ふっと包まれる。抱き込まれるようにして下から腕を伸ばし、体が触れ合う。
自身よりも小さな体躯、だけど自身よりも大きななのはさんの温度が心地良くて、闇の中を駆けずり回っていた自らの心が落ち着きを取り戻していく。
それから宥めるように彼女は囁いた。
「私はまだ、ヴィヴィオの“なのはさん”にはなれないの。どうやっても私は母親だから」
「……そんなのは」
「関係ない、なんていうのは嘘だよね。だから少し待って欲しい」
とくとくと、心臓の音が伝わってくる。幼子があやされるように、私は彼女の胸の鼓動に安心していた。
これから彼女が何を言おうと、きっと頷いてしまうに違いない。
「ヴィヴィオが大人になって、それでもまだ私のことを好きでいてくれるなら、……」
「恋人になってくれる?」
体を離し、“なのはママ”はゆっくりと頷く。
その笑顔は、今まで見たどの笑顔よりも柔らかく温かいものだった。
◇
青空を駆ける虹色の閃光。薄っすらと浮かぶのは微笑。
久し振りの、だけどもう離れることは無いあの人との空だった。
肺にいっぱいの空気が流れ込んでくる。隣を突き抜けるように飛翔するのは、やっぱり自分の大好きな人。蒼く綺麗な瞳をした大切な恋人の彼女が微笑んでいる。
「さあ、行こうかヴィヴイオ」
「うん、なのはさん!」
空を駆ける閃光は二つ。怖いものは彼女以外、もう何もなかった。
× あとがき ×
そんなわけでヴィヴィなのです。ヴィヴィオへたれ攻め?
大人ヴィヴィの心情がなかなか掴めませんでした。公式で殆どでていないだけになかなか。ただヴィヴィオは察しのいい子だと思いますよ。なのはさんのこと分かってあげられる子だと。そして辛い時には支えてくれるだろうと。ヴィヴィオもなのはの騎士です。
あまりここでは関係ありませんが、大人ヴィヴィはツンデレぽいイメージです。メガマガに「最近はちょっと恥ずかしいのであまりいいませんが、わたしはやっぱりなのはママが大好きです」なんて書いてるのが悪いんだ!…最高です。本当に有り難うございました。
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アリサ×なのは

comments
15歳という子供でも大人でもないヴィヴィオがとってもいい♪心に不安定さがあるのもこの年ならでは……いや、ヴィヴィオだからなんでしょうね。そんなヴィヴィオ萌え〜。………そしてさよならフェイトさんw
いつもは誰に対しても強気なのに
なのはに対してはだけはとことん弱いと。
しかし、年の差がいい具合にツボにハマリマシタ。
なのヴィヴィいいな〜v思わず浮気しそうですw
ごめんよ、フェイトそん・・・・・・・
ヴィヴィなのだと私はついフェイトのちょいヤンデレ化を想像してしまうんですがこのように和解?みたいな感じで。
いつか私もこんなSSが書けたらいいって思ってます。これからも頑張ってください。
ヴィヴィオはきっと強くなります。自分の向上心のため、そして何よりなのはさんを護れるようになるため。なのはさんと肩を並べて歩けることをほこれるくらいの騎士に。
そんなヴィヴィオが可愛くないわけがないですからね♪
>ドラグノフさん
そうですね、中途半端とも呼べる時期。多感なそのときに他に目移りせず、なのはさんしか見ないというのも凄いと思いますよ。きっとヴィヴィオはもてるだろうに。惹き付けるだけの魅力をもったなのはさんも素敵だけど、我慢して待ち続けるヴィヴィオも素敵です。
>サクヤさん
ヘタレをまさか自分が書くことになろうとは思いませんでしたwううん、なのはさんが格好良いから、それを上回るとなるとなかなか難しいです。次は頑張ってカッコイイヴィヴィオを書きます。そしてなのはさんはそんなヴィヴィオにめろめろに。
フェイトさんは、……苦労人です。フェイトがあせって告白したのは実ははやてと争っていたという。そんな裏設定。無関係な話なので省きましたがw
>KATANAさん
ヤンデレ!いいですね。
まあ、あれです。ヴィヴィオだから仕方なく引き下がったけれど、ヴィヴィオ以外だととてもフェイトさんは諦められなかったでしょうね……。ヤンデレ化しなかったのは、なのはさんのフォローによりますw
小説応援してますよ!お互い頑張りましょう♪
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